山車と宮入
御神輿渡御が大祭の静の象徴であるならば、山車は動の象徴といえるでしょう。
山車はその地方によって、屋台(やたい・・・高山)、山車(だし・・・愛知県各地)、鉾(ほこ・・・京都)、壇尻(だんじり・・・長崎)、楽車(がくしゃ)、花車(はなぐるま)など、さまざまな呼び名があります。
神明宮の山車は、「だし」と呼ぶのが正式と思われますが、通常「やまぐるま」と呼び慣わされています。
現在、神明宮の氏子には八台の山車があり、いずれも趣のある山車です。この山車も明治時代のころまでは、二層式、三層式(二階、三階建て)の山車が引き回されていましたが、電線が引かれるなどの道路事情により、現在の山車へ改造されたり、新造されました。
また、戦後、山車の引き回しが復活された時期に、本格的な山車が造れず、床が無く、囃子連も一緒に歩く通称「底抜け屋台」というものを引き回した町内があるのを覚えているかたもあるでしょう。
今では多くの山車に舵取りのための装置が付けられ、方向転換が楽になりましたが、中には車輪が固定式のものも残っています。引き手と梶方が呼吸を合わせ、一気に向きを換える姿はなかなか勇壮なものです。
大祭では、各町の特色を表した法被(はっぴ)やゆかた姿も勇ましい大人や子供の手によってそれぞれの町を引き回されます。そして、各所で止めては、舞台をせり出し、可愛らしくもあでやかな手踊りが披露されます。
車中では、これまた、各町それぞれ自慢のお囃子がにぎやかに演奏され、祭り気分をいやがうえにも盛り上げます。
祭りのクライマックスは宮入りです。夕刻、午後7時になると一ヶ所に集まった8台全ての山車にいっせいに灯りがともりスタートです。各町独自のお囃子が流れ、大人も子供も全員で山車を引き、神明宮に向かいます。この時、祭りは最高潮に達します。
夕闇の中を提灯に包まれた山車が進む様子はさながら光の祭典といってよいでしょう。
各町の山車
元能見中町
昭和20年代は東材木の山車を借用、昭和31年は、花車で町曳きを行いました。昭和32年に現在の山車を製作し、その後、手直しをして、現在に至ります。
平成11年、日本一大きな山車のある加賀石川県の友禅夢樹(桧の素材に手書き友禅を染めた作品で、加賀友禅作家久恒俊治:作)の行灯(森清:作)を
前面左右にはめ込みました。神明宮の神紋「五三桐」を杉板に透かし彫りし、左に藤の花、右には山車の正面に彫られている牡丹の花にちなんで牡丹の柄に。
灯りがともる頃、鮮やかに山車が宵の闇に浮かび上がり、美しさを増します。
(山車重量:1,100㎏)
元能見南町
昭和33年に製作され、神明宮では一番小柄ですが、総白木造りで均整がとれた美しい山車です。
この山車には、一本の釘も使用されていません。山車前面及び側面の各所には渡辺武雄氏作の龍の彫刻が施されています。
内には天井絵が描かれ、後方には町名入りの藍染めの幕が飾られています。お囃子は、9つの曲目があり、常時演奏しながら、氏子内を巡ります。
(山車重量:1,200㎏)
元能見北町・城北町(・柿田町)
昭和31年に材木町より譲り受けた山車で、元能見北町、城北町、柿田町の3町で共有しています。
山車全面には仏壇彫りの彫刻が施され、天井には昇り龍が描かれています。
側面には朱色の腰幕が飾られています。舵取り装置を持たないので曳き回しは豪快無双です。
(山車重量:1,400㎏)
能見北之切
明治中期頃よりあった高層式山車の前山及び前部彫刻を利用して、昭和31年に製作されました。
龍、鳳凰、鶴、象、唐獅子牡丹、獏等の彫刻が全体にありますが、中でも正面の透かし彫りの龍は、文政時代に彫られた名作と言われています。
金糸で町名を縫い取った幕が山車の全面・側面を飾っています。町のシンボルである北の守神「玄武」が背にある黒の法被姿の氏子が颯爽と曳き回します。
(山車重量:900㎏)
能見中之切
昭和28年製作の総檜造りの山車で、龍、蓮、獅子等の彫刻が各所に施されています。
山車側面には、紺地に金糸銀糸で阿吽の獅子が刺繍された腰幕が飾られ、「能中」と染められた見返り幕は、元治元年作とのことです。
町民総出で伝統のお囃子に合わせて曳き回されます。
(山車重量:1,200㎏)
能見南ノ切
神明宮の山車の中で一番古く、江戸後期に製作されました。三層式でしたが、大正6年に一層式の山車に改造されました。
山車各所に極彩色に彩られた彫刻が施されています。山車前面の左右の柱を飾る龍の彫刻の目にさらしが巻かれています。
この目のさらしをはずすと祭礼に雨が降ると言い伝えられていて、12年に一度、辰年に巻きかえられます。
次の巻きかえは、2024年です。
(山車重量:2,200㎏)
材木二丁目
大正4年製作の黒及び赤の漆塗りの山車で、前面には美しい獅子、龍、象、仁王像、狛犬等の彫刻が施されています。
山車の天井には、西東畔渓画の墨絵の昇り龍を中心に、その周りを彩色された四季の花鳥十二図柄がとりまくという見事な天井絵が描かれています。
早調子のお囃子にあわせて曳かれます。
(山車重量:700㎏)
松本町
神明宮の山車の中で一番大きな山車。昭和35年に作られました。
山車の各部に、数多くの山車の彫刻を手がけた江坂兵衛氏による矢作橋行列図や天の岩戸図等の彫刻が施されています。
平成14年、二世代前の山車に飾られていた江戸時代末期の作と言われる「陰陽の龍」の彫刻が現在の山車に復活しました。
(山車重量:1,100㎏)